リライト・ザ・ブルー
「そんな感じ。今思い出してみたら、そんな大した話じゃないんだけどね」
大学に入れば、私と似たような人もいたし、なんならもっとずっと危うい人もいた。それこそ、弁護士なんて私みたいな人間に向いている職種だとさえ言われる。事務所の秘書は、私が“そう”だとは気付かずに「あの人ってそれっぽいですよね」と言う。
それでも、あの頃の私にとっては特別な言葉だった。
「……そっか」
侑生も、納得したように頷いた。
「そんなもんだな、恋愛って」
「……そうだね」
いまの私を異常者扱いする人なんていない。なんなら、あの頃だって「ちょっと変わってる」と言われていたくらいで、異常者扱いされたことなんてほとんどなかった。だから、思い返してみれば些細なことだった。
――それなのになぜ、私は、十四年間、この恋を引き摺り続けているのだろう。はたとその疑問が胸に沸いた。
同時に、修学旅行のことが浮かぶ。私は“昴夜と二人きりで過ごしたい”と思っていたわけではなかった。
それは――。
「まあ、俺が英凜を好きになったきっかけも――」
そんなところに、話が思いがけない発展を迎え「え?」と声が出た。でも侑生はまったく構うことなく続ける。
「多分、実力テストで抜かれたことだろうしな」
「……実力テスト?」
想定エピソードはなかったけれど、あまりにも予想外だった。
「つまり……学力ってこと?」
「言ってしまえばそんだけな気がする。……なんか、ずっとつまんなかったんだよな。たまにドラマみたいだなと思うんだけど、うちって祖父さんの影響力が半端じゃないんだよ」
雲雀病院の院長に就任した人が、医者一族の雲雀家を統べるという話だろう。確かに田舎特有の古い家の話かもしれない。
「だから、祖父さんの意向で高校卒業までは市内にいるって決められてて、でも市内の中学なんてろくなところないだろ。周りが馬鹿にしか見えなくて、すげーつまんなかった」
「……そりゃ、侑生は格が違うから」
「でも有名な科学者になるような天才とか、そういうのじゃないだろ、俺は。俺は平均より頭の出来はいいかもしれないけど、でも俺以上の連中なんていくらでもいるはずで、それなのに現にいるのは俺より馬鹿ばっかりでつまんなくて、でもそう思っちまうのもつまんなかった。だから高校入って、入試も実力テストも英凜に抜かれて、世間知らずの自信満々な鼻っ柱を叩き折られたってわけ」
「……よく意味が分かりません」
「ちゃんと俺より頭いいヤツがいたんだってびっくりしたんだって話。世界が広がったとか、そういう言い方すりゃいいのかな――いや」
喋りながら、侑生自身も首を傾げた。