リライト・ザ・ブルー

「謝ることじゃないってば、責めてるんじゃないんだから」


 昴夜が言っているのは一年生のときのことなのに、頭にはあの日のことが浮かんでいたせいで、泣きたくなった。


「……でも、言ったほうがよかったでしょう?」

「……そりゃ、言ってほしかったよ。頼ってほしかったけど……でも、言えないのも分かるから。ただでさえ怖いのに、口に出したら余計に記憶がはっきり残っちゃいそうだって……特に英凜は記憶力がいいから。だから、言えなくても、英凜を責めたりしないよ」


 そうだったのだろうか。あの日の昴夜は、内心では、どうして言ってくれなかったのかと私を(なじ)っていなかったのだろうか。


「……本当に?」

「ん?」


 涙が溢れ出す。冷たくなった頬を、次々と熱い雫が伝った。


「私が言えなかったせいで、昴夜の人生が狂っても?」


 あの事件が起こった日、昴夜は第一志望に補欠合格した。

 昴夜は、成績が良いほうではなかった。それでも、早々に志望校と受験科目を絞って要領よく対策して、念願の合格を果たした。それは、東京に進学する私と一緒にいるためでもあった。

 だから、補欠合格の画面を見たあの瞬間、昴夜がどれだけ嬉しかったか。一緒にその瞬間を見た私だって、嬉し泣きしてしまうほど喜んだ。これからまた一緒にいられると、昴夜の家で一緒に抱きしめ合ってお祝いした。

 それなのに、あの事件が起こったせいで、昴夜は進学できなかった。もちろん、昴夜は新庄を殺していなかったけれど、自首して捜査機関に勾留(こうりゅう)されれば、その日常生活を放棄せざるを得ないのは当然のことだった。最終的に無関係だと判明しても、それまでの期間は、昴夜の日常を壊すのに充分だった。

 だから、昴夜はいなくなってしまった。私と一緒に東京へ行くための努力と成果を、すべて躊躇なく捨てて、私の前から消えてしまった――私のために、すべてを捨てさせてしまった。

 私は何の変哲もない日常を送り続けたのに、昴夜の日常はあの夜にすべて狂ってしまった。どうすれば、それを(つぐな)うことができるだろう。


「当たり前じゃん」


 それでも、目の前の昴夜はそう言ってくれる。まだあの日のことを知らないから。


「言えないのは分かるから。大体、英凜のせいで俺の人生が狂うなんて有り得ないし……俺が英凜に怒ったり、英凜を恨んだりすることなんてないよ」


 それでも、これが私の身勝手な自己満足だと分かっていても、言わずにはいられない。


「……ごめんなさい」

「だから、そんな風に謝ることじゃ――」

「ごめんなさい、昴夜」


 昴夜の肩を涙で濡らしながら、折れそうなほどにその体を抱きしめる。


「私、ずっと、謝りたかったの。ごめんなさいって」
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