リライト・ザ・ブルー
 ホワイトデーの日、私が入った瞬間に教室は騒然とした。何事かと真っ先に陽菜に目を向け、しかし目を逸らされ、間抜けに目を瞬かせる羽目になった。

 クラスメイトの子達が、声を潜めてなにかを話し合う。状況からして私のことに違いないけれど、腫れ物に触るように、誰も何も話しかけてこない。

 ただ、陽菜が、意を決したように口を開いたのが見えた。そのとき。


「英凜」


 廊下から私を呼んだのは、胡桃だった。開いた扉の向こう側には、胡桃の友達らしき子も二、三人いた。


「……なに?」


 昴夜と侑生は、まだ来ていなかった。


「なに? あたしが何言いたいか、分かるよね?」


 何も分からずに首を傾げているうちに、ズンズンと胡桃達は教室へ入ってきた。まるで印籠のように、胡桃は私に携帯電話の画面を突き付ける。本体よりも大きなぬいぐるみのストラップがジャラリと揺れた。


「これ、どういうこと?」


 あ、と声を上げそうになった。

 そこには、私が昴夜と抱き合う写真がうつっていた。

 夕暮れどきの薄暗い中、昴夜の家の玄関前で抱き合う私は、しっかりコートを着込んでいる。ということは、おそらく先月のバレンタインの写真だろう。


「これ、英凜でしょ? しらばっくれても無駄、この後、駅で英凜と昴夜が歩いてるの見たって子もいるから」

「別にしらばっくれる気はないけど、これがどうかしたの」

「は?」


 しかし、私が声を上げそうになったのは、隠し撮りされていたのを驚いたからではない。

 微細な変化はあれど、過去にほとんど同じ出来事があったからだ。


「開き直るつもりなの? 友達の彼氏と浮気しといて?」

「浮気の定義から始めて。私と昴夜が何をしたの?」

「言い訳しないでッ!」


 バンッと、揺れるほど勢いよく机が叩かれた。

 胡桃はその(まなじり)を吊り上げ、唇を震わせながら「信じらんない、本当に悪いことしたって思ってないんだ?」と私を責め続ける。


「言っとくけど、英凜が昴夜とラブホ行ってた写真だってあるんだから」

「ああ、ラブホね」


 心当たりのある出来事に深く頷くと「なに開き直ってんの!?」と怒号が飛んだ。それはそうだ、これは私が対応を間違えた。
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