リライト・ザ・ブルー
「……美人局って、なんだ?」
おそるおそる、陽菜がやってきた。今朝の態度からして、陽菜も噂を信じてしまっていることは間違いなかった。
「一年のとき、そこの馬鹿が美人局にひっかかったんだよ」
言いながら、侑生が荒神くんの隣を指差す。中津くんが「あのときは本当にスミマセンでした」とぺこぺこ頭を下げた。きっと侑生達は彼にも根回ししたのだろう。
「ナンパしてきた女とラブホ行ったら、自称彼氏が出てきて、うちの彼女を連れ込んでなにしてやがるって、恐喝されたんだよ。十万だったな」
「十万!?」
ひぇーっ、なんて悲鳴つきのオウム返しは、他のみんなが事の重大さと真実性を信じるのにうってつけだった。侑生も昴夜も、陽菜には協力を頼んでいなさそうなのに、完璧なリアクションだ。
「それが美人局だって分かったから、三国が話つけに行ってやったんだよ。金は女に持ってこさせろって言われてたしな。そのとき、ラブホがどういうもんか分かんねーと勝てる口喧嘩も勝てねーつって、俺と昴夜が連れて行ったんだよ」
「あー……確かに英凜、雲雀に教えてもらわないとラブホなんて知らないよな……」
「馬鹿にしないでよ、そのくらい知ってる」
口を尖らせれば、じろりとでも聞こえてきそうな様子で侑生と昴夜が私を見た。……いまは知っている、いまは。
「……そういうわけで、裏掲示板に載ってんのはそのときの写真だって話ね」コホンと昴夜が咳払いした。
「そっかあー!」
そこで陽菜が大声で頷いた。その顔には明らかに安堵が広がっていた。
「じゃ、その写真誤解だったんだ! 実はさ、あたしもその写真見ちゃって、てか写真見たからうわマジかもって思ってどうしよってなってたんだけど。胡桃ちゃんも誤解したんだな」
「誤解?」
侑生が鼻で笑い、その笑顔は凍りつく。
「……誤解だろ?」
「胡桃はさぁ、美人局のせいで俺と英凜がラブホ行ったって知ってんだよね」
「え……」
「そのとき、侑生が女装したもんねー」
「マジ!?」陽菜が叫び、侑生のこめかみに青筋が浮かんだ。
「女に金持ってこさせろって言われてたけど、英凜だけ行かせたら危ないから。侑生に女装させよって話になって」
「めっちゃ似合うだろ絶対!」
「黙れよ」
「でも英凜が化粧品持ってないから、胡桃に借りたし胡桃に化粧させた」
「絶対めちゃくちゃ美人になったよな!? 写真ないのか!?」
「いまそういう話はしてねえんだよ!」
本気で怒鳴る侑生の後ろで、私は額を押さえる。侑生は女顔なのを気にしていた。