リライト・ザ・ブルー
「いましてんのは、だから牧落が写真を見て誤解するはずねーってことだよ。アイツは知ってんだからな」
「あ、そっか、そういうことか」
陽菜の反応で話が脱線したけれど、お陰でわざとらしくない程度に事情を説明することができていた。
胡桃は今朝、私が昴夜と一緒にラブホに行った写真もあると言った。でも胡桃は、その写真が美人局を罠に嵌めるためのものだと知っていたのだ。
噂の歪さが、じわじわと教室内で広がっていく。
「……んで、その裏掲示板ってやつを見せろよ」
「あ、はい、どうぞ」まるで舎弟のように、荒神くんは両手で携帯電話を差し出した。侑生が勝手に操作するのを、私と昴夜はそれぞれ後ろから覗き込む。
真っ黒い背景に白い文字で「ハイコー ウラ掲示板」と書いてある。その下に、荒神くんに教えられたとおりのパスワードを入力すると、同じデザインで今度は文字ばかりの画面が出てきた。何度かページを戻ると、話題のラブホの写真が出てくる。その下には、ご丁寧に『優等生さん一年生、ラブホにて』というコメントまで書いてあった。
「うわー、俺幼い! 懐かしい」
「なに言ってんだ?」
「はい、すみません」
気持ちは分かる。一年生の昴夜は、まだ背が伸びていないし、あまりハーフっぽさも目立っていないし、いまよりさらに可愛いのだ。私も頬を緩めてしまいそうになり、コホンと咳ばらいをして誤魔化した。
「えーと……『彼氏の親友とヤってるとかヤバすぎでしょ』『自分が一番じゃないと気に入らない人っているよね』『1年の時点でサクッと優等生食ってる桜〇もすごい』『桜〇が意外と手早いのは有名』……俺マジで悪者扱いなんだけど」
「それはどうでもいいんだけど」
「よくないよ?」
「この掲示板だけでそんな噂広まるか?」
ゴクリと、誰かが唾を呑みこむ音がした。
「まー広まんないよね。メールでも回ってたんじゃないの、ちなみに池田は?」
「あ、うん、あたしは……胡桃ちゃんから直接聞いた」
「は? なんて?」
鋭い目が陽菜を睨む。どうどう、とその肩を叩いて宥めた。
「えー……その、裏掲示板見に行ったら、ラブホの写真があったんだって言われて……あと、英凜と桜井が抱き合ってる写真が送られてきて、どう思う、っていうメール」
どう思う――胡桃は、自分からは言わなかったのだ、“これってそういうことしてたってことだよね”“浮気してたってことだよね”と。