リライト・ザ・ブルー
「なんだこの気持ち悪い文章。悲劇のヒロインごっこは一人でやれよ」
現れたブログを一読し、侑生は吐き気でもしそうな声音で呟いた。どれどれ、と言いながら陽菜も画面を覗き込む。
「うわ本当だ……。てか英凜、どうやってこの記事出したんだよ、削除されてたんだろ?」
「削除はされてなかったよ」
ブログのURLは、サーバーのドメイン後の文字列が規則的だった。その内訳は、胡桃が独自に設定してるユーザーID、”blog”という機能名、通し番号らしき数字、そして日付。ということは、最後の二ヶ所を変更すれば、特定の日のブログを出すことができる。特に、最新のブログなら直近の通し番号に1~2を足せばいいし、噂が広まった直後のいま、ブログが書かれた日付を特定するのは容易かった。
「もちろん、URLを直接入力してもアクセスできない可能性はあったけど、古いだけあって杜撰なのかな。ブログのトップページから削除するだけで、記事を非公開に――外部から表示できない状態にはできなかったみたい」
「すげーっ、探偵みたい!」
「……よく知ってんな、そんなこと」
「一応、専売特許だからね」
訴訟を扱う弁護士にとって、証拠収集能力も必要な能力のひとつだ。さすがの侑生も首を傾げていたけれど、ここでは詳しい説明はできない。
「それより、結論出たよね」
ひょいと、昴夜が私の手から携帯電話を取り返した。
「発端は、裏掲示板。でも噂を広めたのは胡桃」
え、胡桃ちゃんが――? そんな動揺が、波紋のように広がる。
当然といえば当然だった。胡桃は、悪い子じゃない。明るくて可愛くて、負けず嫌いなところもあるかもしれないけれど、昴夜が「カースト上位」と評したように、男女問わず人気者だった。
その胡桃が、私を貶める噂を広めるなんてことがあるだろうか? みんなそう思っているのだろう。
「……でも桜井、英凜と抱き合ってたのは本当なんだろ?」
おそるおそる、陽菜が口を挟んだ。
「お前らが仲良いのはそりゃ……知ってるけど。彼氏がそういうことしてたら、怒るのは分かるってか……」
「んでも俺、バレンタインには胡桃と別れてたよ」
「え?」
「えっ」
驚いたのは陽菜だけではない。私も、それは聞いていなかった。
確かに、過去でも二人がバレンタインに破局したとは聞いた。でも今回は何も言われていないし、それこそいまの昴夜が私に何も言わない理由がないし、てっきりその過去もズレたのだと思っていた。
「マジかよ……んでも、この、抱き合ってたのって……」
「バレンタインの後だよ、土曜だったもん」
だから浮気でもなんでもないんだ、そう言いたげな昴夜に、陽菜が釈然としないながらも頷こうとしたとき。
「それと、お前が英凜を抱きしめるのとは別だろ」
……思わぬ伏兵が、昴夜を刺す。