リライト・ザ・ブルー
その日、丸一日、二人は口をきかなかった。いつも兄弟かと思うほど仲良い二人がそれなので、三月だというのに、教室はまるでシベリアのように凍えた空気に包まれていた。
放課後、私は一人で胡桃のクラスへ向かった。侑生には「どこ行くの」と怪訝な顔をされてしまったけれど、侑生がくると胡桃達が勢いづきそうだったので「先生に呼ばれてる」と誤魔化した。
私が胡桃のクラスに立ち入った途端、ザッと一斉にクラス中の視線が向けられた。他人の注目を集めるのは大人になっても慣れていなくて、少し緊張しながら教室内をつっきり、胡桃の前に立つ。すぐに、胡桃を庇うようにその友達がさささっと集まってきたし、胡桃は親の仇のごとく私を睨み付けた。
「……よく、ここまでできるよね」
「何が?」
どちらかといわずとも私のセリフだった。
「侑生と昴夜を使って、あたしを貶めたんでしょ。全部知ってるんだから、五組でなに話してたのか」
二人を利用したつもりはなかったのだけれど、庇ってもらっておきながら関係ないですと言うつもりはなかった。
それに、正直、十七歳の胡桃を相手にする気にはなれなかった。まったく同じことが過去に起こっているし、そのときにも侑生と昴夜が私を庇ってくれている。ここであえてもう一度、胡桃を弾劾する意味はない。
それでも、別の意味で、胡桃には言っておきたいことがあった。
「安心して。裏掲示板に写真を載せたのが胡桃だとは、話してないから」
「は?」
静かに告げると、逆ギレ気味の返答がきた。
誰が最初に裏掲示板に書き込みをしたのか――その疑問は解消されないまま、侑生が昴夜を殴って、話は有耶無耶になってしまった。でも私は、それが胡桃の仕業だと知っている。過去もそうだったし、今回も証拠があった。
カチカチと、携帯電話を操作する。スマホと違ってスクショ機能はなく、画面メモという形でブラウザをオフラインで閲覧することができるだけだった。でもそれで充分だと、胡桃に見せる。
「裏掲示板の最初の投稿は、私と昴夜が抱き合ってる写真から始まるでしょ。この投稿日時は十三日の午後八時七分、それから、胡桃がブログを書いたのが同じ日の午後八時二十三分。これがどういう意味か、分からないはずないよね?」
「は、全然分かんないんだけど」
「十六分しかないの」
裏掲示板に写真が載ってから、胡桃がブログを書くまでの時間が、たった十六分しかない。そもそも十六分というのは最大時間――“裏掲示板に投稿されたのを即座に見た場合”だ。ツイッターのタイムラインじゃあるまいし、じっと裏掲示板に張り付いて新規投稿を待っているなんて考えにくい。