千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 追ってくるつもりはないことに安堵したら、ほんの少し冷静さが戻ってくる。
 どのみちこれからふたりで出かけないといけないのだから、部屋に閉じこもることはできない。でもせめて、この暴れ狂う心臓が元の状態に戻るまではひとりになりたい。

 止めていた足を一段上に置いたとき、「えっ」と驚く声がした。リビングを見下ろすと、スマートフォンを耳に当てた彼がめずらしく渋い表情をしている。

 どうしたのかしら……。 

 仕事関係でなにかあったのかもしれないと思いながら、じっと見つめていると、彼が顔を上げた。目が合った瞬間さっきのことがよみがえり、動揺が態度に出そうになったけれど、それよりも早く彼が困ったように眉を下げる。

「ええ、わかりました。こちらのことはなんとか……はい。ではまた」

 ほぼ相づちで通話を終えた彼は、スマートフォンを持つ手を下げると同時に私に向かって口を開いた。

「ごめん、美緒。今日の顔合わせは延期にさせてほしい」
「え?」
「母の都合が悪くなったそうだ」

 さっきの電話はお父様からだったそうだ。

「せっかく準備してくれたのに、本当に申し訳ない」

 智景さんがこちらに向かって頭を下げた。

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