千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「いえ、私なら大丈夫ですから」

 正直、彼のご両親に会わずに済んだことにほっとしている。
 けれど、今回はただ先に延びただけで、やらないといけないことには変わりない。もしかしたら半年後までこの状態が続くのかと思えば、気が遠くなりそうだ。

 思わずため息をつきそうになり、いけない、と慌ててのみ込んだ。

「じゃあ私、着替えてきますね」

 さっきの出来事のせいで、彼とこのまま顔を突き合わせているのは気まずい。着替えを理由にこのまま部屋にこもってしまおうと思いながら階段を上ろうとしたとき、「待って」と声が飛んできた。

「せっかく準備したんだ。このままどこか出かけないか?」

 智景さんの提案に一瞬心が揺れた。このまま部屋にこもりたい気持ちはあるが、素敵な服でどこかに出かけたいという気持ちもある。ふたつが天秤にかけられ、断りの言葉をのど元で押し留める。

「美緒は、どこか行きたいところがある?」

 行きたいところ……と考えた瞬間、口が勝手に動いていた。

「京……都」 

 耳に入った自分の声に、はっと我に返る。

 私今、声に出してた⁉

 彼が目を丸くしている。それもそうだ。普通は買い物や映画と答えるところだろう。

「えっと、そうじゃなくて」

 慌てて訂正しようとしたところで、手のひらをすくうように取られた。

「了解。プラン変更。京都でデートだ」

 にっこりと笑った彼は、流れるような動作で私をエスコートし、そのまま家から連れ出した。


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