千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 ***

「わあ……思ったより高い!」

 欄干から下をのぞき込むと同時に、口から言葉が飛び出した。テレビや雑誌でしか見たことのなかった光景に、一瞬で興奮した。

「智景さん、ほらあそこ。さっき前を通った京都タワーが見えます」

 指をさしながら振り返った瞬間、強い風がビュンと吹きつけてきて、顔にぶつかる冷たさに思わず肩をすくめた。

「あまり乗り出すと北風に飛ばされてしまうぞ」

 智景さんがくすくす笑う。

「そんなに軽くありません」

 そうは言ったものの、この高さから落ちることを想像してしまい、ぞっとして足が後ろに下がる。そんな私に彼がまた忍び笑いを漏らした。

 私達は今、京都の代表的な寺社で人気の観光地である清水寺に来ている。
 智景さんが突然京都へ行く宣言をしたときは半信半疑だったけれど、まるで電車で数駅先の街にでも行くかのような軽やかさで、一時間もたたないうちに西へ向かう新幹線に乗っていた。

 唐突に決めたにもかかわらず、座席はしっかり横並びの指定席。しかもグリーン車だ。
 初めてのグリーン車に最初はそわそわしたけれど、富士山が見えたときは無意識に感嘆の声を上げていた。広々としたシートに足を延ばしてゆったりと座ることができ、車内での昼食の後は、気を緩めると眠ってしまいそうだった。

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