千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「ひとりではしゃいでしまって、子どもみたいでしたよね」

 反省と気恥ずかしさが胸の中で一緒くたになり、すねたような口調になってしまった。「すみません」とうなだれたら、頭をぽんぽんと軽く撫でられる。

「謝ることはないさ。むしろ楽しんでくれていることがわかってうれしいよ。連れてきた甲斐がある」
「そ……そうですか」

 優しく微笑まれてほっとしたら、今度は羞恥心が込み上げてきて、頬がじわじわと熱くなっていく。こんなふうにはしゃいだのはいつぶりだろう。

 いくら京都に来るのが初めてだからといって、ここまで興奮するなんて思わなかった。
 この数時間、自分でも信じられないほどに感情がこぼれ出している。その理由を自分でも計りかねていた。

「にしても、ここは寒すぎるな」

 たしかに、とうなずく。今は二月下旬――すなわち真冬の京都で、山の中腹にある吹きさらしの舞台の上だ。寒くないわけがない。

 ダウンコートを羽織ってはいるものの、急に決まった京都行きのことばかりが頭を占領していたため、マフラーや手袋などは忘れてきたし、足元は薄手のストッキングにショートブーツという軽装備だ。

 彼の方はグレーのチェスターコートの中に、黒いジャケットのセットアップにサックスブルーのスタンドカラーシャツを合わせている。背が高く手足の長い彼は、なにを着てもモデルのように様になる。

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