千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 有名な清水の舞台に興奮していたせいで一瞬忘れていたけれど、やっぱり真冬の京都は寒い。絶えず吹きつけてくる冷たい風に、肩をすくめて両手を擦り合わせた。

「どこかで防寒具を調達するとして、とりあえず今はこれでがまんして」

 彼はそう言って自分の首からマフラーを外すと、私の首にぐるぐると巻きつけた。

「あの……私なら大丈夫ですから」

 ファー付きのフードを被れば冷たい風はそこそこ防げる。長い首があらわになった彼のほうが、見るからに寒そうだ。
 せっかく巻いてくれたのに申し訳ないけれどこれは返そうと、マフラーをはずそうとしたら、そっと手を押さえられた。 

「いいからつけておいて」

 有無を言わせぬ声色でそう言った彼は、そのまま私の手を包み込むように握った。

「……っ」
「やっぱりこっちも冷たい。氷みたいだ」

 振りほどこうとするより早く、指先がじんと痺れはじめる。痛いほど冷たくなっていた手がじわっと溶けるような感覚がした。

「こっちはこうしておこう」

 彼は私の手を握ったまま、手を自分のコートのポケットに突っ込んだ。

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