千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 京都から帰ってきてから、自分の中にある変化が生まれていた。

 体が――いや、心が軽いのだ。まるで、幾重にも重ねた衣を脱ぎ捨てたかのようにすっきりとしている。それにあれ以来、記憶の夢も見ていない。

 心の中にずっと抱えて、誰にも言えなかったことを吐き出せたおかげなのだろうか。

 でも、智景さんには迷惑ばかりかけちゃった……。

 全然関係のない彼に八つ当たりしたり泣きじゃくったりと、醜態ばかりをさらしてしまった。

 その上、翌朝は彼の腕の中で目が覚めた。
 一瞬で全身の毛穴が開き、口から絶叫が飛び出かけた。それをぎりぎりでのみ込み、息を殺して彼の腕の中から抜け出した自分を心底褒めてやりたい。

 逃げ込んだパウダールームで、口を押えて床にへたり込み、羞恥にもだえ苦しんだ。

 彼もいいかげんこんな私にあきれ返っているのではないだろうかと思ったけれど、今のところそんな様子はない。あの翌朝も、まったく何事もなかった顔で起きてきた。

「いけない。ぼうっとしている場合じゃなかったわ」

 今日はこれから書道教室に行く。京都土産を光子先生や教室の仲間に配るため、いつもより早く出るところだ。

 お化粧をして、黒いニットとパンツに着替えたところで、インターホンが音を立てた。
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