千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 どういうことなの……⁉

 きちんと自分で支払います、と言おうとして言葉に詰まった。そうだ、今財布の中には現金がほとんどない。食事代はカードで払うつもりで、財布に入っている一万円札はすべて長澤さんに渡してしまったのだった。

 どうしよう。このまま支払いの代わりに部屋に連れて行かれたりしたら……。

 もう一度下ろしてもらうよう頼もうとしたところでエレベーターホールに着き、ちょうど開いたドアから乗り込まれる。幸か不幸か小さな子どもを連れた家族がひと組いるだけだ。横抱きにされているせいで驚いた顔をされる。パパと手をつないだ小さな男の子に「お姉ちゃん抱っこだね」と言われ、居たたまれなさすぎて気が遠くなった。

 うつむいて羞恥に悶えているうちにエレベーターのドアが開き、外へと出た。地下駐車場だ。

 送ってくれるって、まさか車で?

 ホテルの部屋に連れ込まれなかったことにはほっとしたが、初対面の男性の車に乗るなんてできない。なんとしても下ろしてもらわなければと口を開こうとしたとき。

「ああ、ちょうどよかった」

 彼がつぶやいた直後、一台の車がやって来て、私たちの前に横づけした。見るからに高級そうな黒塗りの車から運転手が降りて来て、「お帰りなさいませ」と言って後部座席のドアを開く。まさかそんなセレブのような対応をされるとは思いも寄らず、呆然としているうちにシートに下ろされた。しまった! と思ったときにはもう遅い。

「奥に詰めてもらっていいかな。後続車が来ているから迷惑になる前に乗らないと」

 言いながら乗り込んできた彼を避けたら、自然と奥に詰めることとなった。

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