千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 どうしよう……。いくら親切にしてもらったからって、知らない人の車に乗ってしまうなんて……。

 黒とブラウンを基調とした高級感あふれる車内で、変な汗をにじませながら固まっていると顔をのぞき込まれる。

「シートベルト、着けられる?」
「え、あっ、はい」

 車が動き出そうとしてことに気付いて、慌ててシートベルトを手に取った。慌てているせいで指先に力が入らず、なかなかバックルにはまらない。焦ると余計に手が滑ってしまう。

「焦りすぎ」
「あ……」

 声と共に延びてきた手が私の手を包むように持った。体温が一瞬で上昇したと同時にカチャンという音がしてシートベルトが留められた。

「すみません……」

 くすっと笑われ、顔がさらに熱くなる。

「家まで送って行くから住所を教えてくれないかな」
「えっと……」

 自宅を教えていいものか悩み、返事を言いよどんだ。すると彼は困ったように眉を下げる。

「そんなに警戒しなくても大丈夫。誓って送りオオカミにはならないよ」

 どこまで信用していいのかわからなくて迷っていると、彼はなにかを思い出したかのように「そうだ」と口にして、スーツの胸ポケットからなにかを取り出した。
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