拝啓、前世の恋人へ。恋知らずな君を千年分の愛で離さない
 いつもと変わらない飄々とした態度の彼に、万由美さんは盛大に長い息を吐き出した。

「そこまで言うのならお好きになさい」

 それだけ言うと、万由美さんはすっくと立ち上がった。奥のふすまに向かって歩き出したので、部屋を出ていこうとするのだと気付く。とっさに声を上げる。

「あの! 私は至らないところばかりですが、智景さんのそばにいられるならどんなことでも耐えられます! 彼のことをそばで支えられるよう努力を惜しみません。だから――」

「美緒さん」

 話を遮るように名前を呼ばれた。聞きたくないと言われるのかもしれない。とき、彼女が振り向いた。

「続きは次回(また)にしてください」
「え……?」

 意味がわからずぽかんとしたら、万由美さんは智景さんの方を見た。

「智景、次はお父様がいらっしゃるときに、きちんと結婚のご挨拶にいらっしゃい」
「ありがとう、母さん」

 万由美さんは小さくうなずくとふすまの向こうへ行ってしまった。

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