千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 十畳ほどの和室にふたりきりになる。智景さんが正座のまま、すっと体をこちらへ向けた。

「美緒、悪かったね」
「え?」
「母が嫌な思いをさせただろう」
「いえ……そんなことはありません」

 万由美さんは私に『覚悟』を問うただけで、決してわたし自身のことを貶めるようなことは口にしなかった。今思えば、生半可な気持ちでは大変だからやめておきなさいと、半分過去の自分に言うような気持ちで忠告をくれたのだろう。

 色々なことがあったけれど、収まるべきところに収まったのかもしれない。

 問題があるとすれば、私と智景さんとが本当の恋人ではない、ということだけだ。私達はまだ、ただの『恋人代役』。これより先に進むには、私が自分の気持ちを告げるしかない。

 そう思ったとき、頭の片隅に記憶の中の人がちらついた。

 たとえ彼が千年前のあの人ではないとしても関係ない。今の私が――『滝川美緒』が、初めて好きになった人は、まぎれもなく『東雲智景』ただひとりだ。

 心臓が一気に早鐘を打ち始める。

 今でなくてもいいのでは? と、もうひとりの自分がささやくが、それを必死に打ち払う。タイミングを逃したらまた言えなくなるかもしれない。

『あのときああしていたら、こうしていたら』と後悔するのはもうたくさんだ。

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