千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「ごめん、自己紹介がまだだったね。これですこしは信用してもらえたらいいけど」

 差し出された名刺を、条件反射で受け取る。

東雲(しののめ)……智景(ちかげ)さん……」

『東雲』といえば、私が勤める『株式会社フォーミー』の親会社『東雲商事(しののめしょうじ)株式会社』が一番に頭に浮かぶ。
 東雲商事は、戦前の『東雲財閥』の流れを組む東雲グループの中核企業のひとつで、日本のみならず世界に名をとどろかせている大企業だ。

 彼の名前の横にあるのは『EC(イーシー)アーバン開発(かいはつ)株式会社』という社に、やっぱりと思う。私が勤める『株式会社フォーミー』と同じく、東雲商事の子会社だ。

 ECアーバンは数ある子会社の中でもここ数年目覚ましい飛躍を遂げていて、子会社の中でも群を抜いて業績がよい。

 名前の隣にある『代表取締役社長』という肩書は嫌でも目に入った。
 そして現在三十三歳の社長は、見た目も経営手腕も恐ろしいほど優れているという噂は、グループ末端の我が社まで届いている。

 恐る恐る名刺から視線を上げると、目が合ってにこりと微笑まれた。

「ひょっとしてきみは、タキガワミオさん?」
「どうして私の名前を……」

 私はこの人に名前を名乗った記憶はない。もしかしてどこかで出会っていたのを忘れているの? こんなに見目麗しい男性なら、一度見たら忘れないと思うのだけど……。
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