千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「やっと捕まえた。もう二度と手放さない」
「智景さ――」

 息ができないほど強く私を抱きしめた彼は、耳元で苦しげに息を吐き出した。

「事件から三年後、僕は恩赦で都へ戻った。一番にきみを訪ねたけれど、きみはすでに……」
「三年後……そんな……」

 彼が流罪となった後、深い悲しみのあまり私は体調を崩し、二年とたたずにこの世を去った。彼を置いていなくなったのは、私の方だったのだ。

「だけどいつ必ず巡りあえると信じていた。千年たっていてもひと目でわかったよ。きみが僕の愛する人だと」

 彼は千年もの間、ずっと私のことを待ってくれていたにもかかわらず、私は彼の容姿すら覚えていなかった。やっと巡りあえたのに、自分のことを忘れられていた彼の気持ちを思うと、心臓がねじ切れそうなほど痛む。

「ごめん……なさい……」

 申し訳なさに顔を上げられずにいると、髪をそっと撫でられた。

「忘れなければ君の心が耐えられなかったのだろう。それほどにつらい思いをさせたのは、間違いなく僕の(とが)だ」
「違うっ、悪いのは私で……っ」

 勢いよく顔を上げると、甘く光る瞳とぶつかった。彼は奥二重のまぶたを細めてうれしそうに微笑む。

「相変わらず真面目だね、きみは」

 ふふっと笑う声の後、「そんなところも愛おしい」と耳元でささやかれる。

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