千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
千年前の記憶

 燈台の火はとっくに落ち、御簾(みす)の隙間から差し込んでくる細い月明かりだけが、手元を照らしている。

 ぼやけた視界の中で、柔らかく流れるような墨跡がゆらりと揺れた。

 いけない、にじんでしまうわ。

 慌てて目元を押さえた。
 目からこぼれ出た水滴が、幾重にも重なりあった袖に吸い込まれていく。

 どんなに嗚咽を漏らしても、抱きしめてくれるあの人はもういない。それが悲しみに追い打ちをかける。

 温かな腕にすがりつく代わりに、薄く手触りのよい紙をそっと胸に抱きしめ、わななく唇を開いた。

「『置いていかないで……!』」

 自分の声に、はっと目が覚めた。

 ああ、またあの夢……。

 カーテンの隙間から差し込む朝陽がまぶしくて、手の甲でまぶたを覆うと、しずくがついた。

 久々にこちらでも泣いてしまったのね……。

 幼い頃から幾度となく同じシーンを見てきた。最初は訳が分からなくて、目が覚めたときに泣きじゃくることもあった。怖い夢を見たのねと母親になだめられたこともある。
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