千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「なにか悩み事でもあるのかしら」

 どうしてそれを……。

 今日はまだ挨拶をしただけで特に会話らしい会話はしていないのに、まるで頭の中を覗かれたようなセリフに内心驚く。すると先生は「ふふっ」と笑う。

「今、『どうしてそれを?』と思ったでしょう」
「……っ」

 またしても当てられて驚いた。口どころか、表情にも出ていないはずなのに、どうしてわかるのだろう。

 思わず目をしばたたかせた私に、先生は柔らかなしわの刻まれた目を細くした。

「美緒ちゃんは自分では気持ちが顔に出にくいと思っているみたいだけど、よく見ていたらそんなことはないの。むしろ楽しいときは背中に『楽しい』って書いてあるくらいよ」
「そ……う、なんですか?」
「ええ」

 衝撃の事実だ。家族や親友からは、よくその時々の心情を当てられることがあったが、まさかみんなそういうふうに見えていたのだろうか。

「ちなみに今日の美緒ちゃんは、『心ここにあらず』ね。どこかそわそわしていて別のことばかりを考えているでしょう」
「……っ」

 優しい口調だったが、書道に身が入っていないことを的確に言い当てられてひやりとした。

< 27 / 177 >

この作品をシェア

pagetop