千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
　先生が気さくに話しかけてくれるおかげで、他の生徒さん達も私に声をかけてくれるようになり、今ではほぼ全員と気軽に話ができるようになった。
　この書道教室は、実家から遠く離れた都会の中でひとり暮らす私にとって、かけがえのない憩いの場となっているのだ。

　光子先生になら、私の中で長年くすぶっている不思議な感覚を話してみてもいいかもしれない。

　教室が終わった後に少しだけ時間をもらえるか聞いてみようか。そう思って口を開きかけたところで、離れた席から先生を呼ぶ声がした。先生はそちらを向いて「はぁい」と返事をした後、私に「じゃあ、またね」と言って離れていった。

　先生はお忙しいのだから邪魔をしてはいけないわね……。

　他の生徒の作品を見ている先生に、心の中で『ありがとうございます」と唱えてから、もう一度自分の書に向き直った。

　先生の書いた手本をひと文字ずつじっくりと見つめる。
　光子先生の書かれる文字はとても美しい。基本を少しも外していない上、どこか品を感じる筆跡で、どうやったらこんなに美しい文字が書けるのかと見惚れながら考える。
　教え方も丁寧でわかりやすく、こんなに魅力的な文字が書けるのに、どうして街角のコミュニティーセンターでひっそりと教室を開いているのだろう。

　実は先生の筆跡は、今まで私が見てきた中で一番あの夢のものに近い。最初に見たときは思わずどきっとした。夢の中で相手からもらった文を穴があくほど見つめていたため、筆跡だけはしっかりと頭に焼きついていた。

　けれどそれは一瞬のことで、よく見るとやはり違っていた。なにがどう違うかを説明するのは難しいけれど、とにかく『違う』ということだけはわかっている。

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