千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 書道教室が終わった後、帰りがてらスーパーに寄って買い物をした。土曜日のうちに食材を買い込んで、日曜日は平日の分の作り置きをするのが、ここ最近のルーティンだ。

 結局あの後、光子先生と話すことはできなかった。先生は教室の後すぐ予定があるらしく、急いでいる様子で手早く教室の片づけをしていたので、声をかけるのがはばかられたのだ。

「ちょっと買いすぎちゃったかしら……」

 あれもこれもと買いものに夢中になっているうちに、コミュニティーセンターを出てから一時間もたってしまった。
 右手右肩に買い物、左手に書道道具を持って、冷たい風に肩をすくめたとき。

「美緒」

 後ろから聞こえた声に、振り返った。

「あ……」

 車の窓から顔を出している男性が、こちらに向かって手を上げている。運転手付きの黒塗りのセダンでも三つ揃えのスーツでもない。白いSUV車に白いケーブルニットという、昨日とはまったく違う出で立ちだが、その顔は相変わらず他の誰とも間違えようがないほど整っている。
< 30 / 177 >

この作品をシェア

pagetop