千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 ずるい。『乗らないと返さないぞ』ということなのだ。綺麗な顔でにこりと微笑まれても、脅迫のようにしか思えない。
 不本意だがものの数分だと思い、渋々車に乗ることにした。

 東雲さんは、助手席に乗り込んだ私がシートベルトを締めるのを確認すると、滑らかに車を発進させた。

「約束通り乗りましたので、ネックレスを返してください」
「今は運転中だから着いたらね」
「なっ……」

 約束と違うじゃないですか!

 そう思いきり叫びたかったが、運転中の彼を驚かせてはいけないと、グッとこらえる。『今すぐ返してください』と迫ったところで自宅はすぐそこ。押し問答をしているうちに着いてしまうだろう。

 今はおとなしく黙って乗っておいて、到着したらすぐに返してもらおう。そう考えて膝の上で重ねた手をぎゅっと握ったところで、東雲さんが口を開いた。

「少しは考えてくれたかな」
「え?」

 なにを? と問う前に彼が「昨日僕が言ったことだよ」と続ける。

「それは……すでにお断りしたはずですが……」
「お酒が入っているときじゃなく、しらふのときに改めてもう一度考えてほしいんだ」

 早口でそう言った声には、これまでのようにこちらの意をひらひらとかわすような感じはなく、どこか必死めいた気配があった。

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