千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「どうしてそこまで……」

 思わず口からこぼれた次の瞬間、はっと気づいた。私の断り方が下手だったせいで、彼の自尊心を傷つけてしまったのかもしれない。

「ごめんなさい……私の態度が悪くて不快な思いをさせてしまったのですね。原因は私自身であって、決してあなたにはなんの落ち度もありません。むしろあなたは私にはもったいないくらい素敵な人だと思います。だからどうぞもうお気になさらず……」
「本当に?」
「はい」

 気のせいかな、さっきよりワントーン声色が明るくなったような……。

 運転席にちらりと視線を遣ると、彼は前を向いていた。

「きみに『素敵な人』だなんて言ってもらえるなんて、それだけで来た甲斐があったよ」
「え……」
「もっと素敵だと思ってもらえるように、さらに努力しないとな」

『そんな必要ありません』と言いたかったけれど、にこにことあまりにうれしそうな顔に毒気を抜かれる。

 どうしたらすんなり諦めてもらえるのかしら……。

 そのことに頭をひねっているうちにアパートに到着した。

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