千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。

　突然「滝川さん！」と大きな声で呼ばれた。
　弾かれたように東雲さんの手を振り払い振り向くと、アパートの方から管理会社の人がやってきた。彼は私に、上階の水道管が凍結により破裂し、大規模な水漏れが発生したことを告げた。

　急いでアパートの階段を駆け上がり、自分の部屋のドアを開けた瞬間、私は言葉を失った。

　室内は一面水浸しで、天井からはポタポタとしずくがしたたり落ちている。
　１Ｋの間取りで、キッチン部分がこの有様だ。奥の部屋を見るのが怖くなる。

　管理担当者の話では、建物自体の老朽化のせいもあるため、これからどういった修繕処理が行われるのかは検討中だそうだ。

　今の段階でわかっていることは、たった今からこの部屋に住むのは当面の間不可能となった――ということだけ。駅まで徒歩十分圏内という好立地のわりに家賃が低価格なのは、築年数が私の年よりも上だから――ということは理解していたけれど、引っ越してきて半年でこんな事態に襲われるとは考えもしなかった。東京での生活に慣れてきたら、もう少し広くて新しい物件を探そうかと思っていた程度だ。

　これからどうしたらいいの……。

　家電はもとより、衣類や日用品など、どれだけのものが濡れてだめになってしまったのだろう。それを確認しなければならないとわかっているのに、足が一歩も動かない。冷たい水の中に足を踏み入れた瞬間、身も心も凍ってしまいそうだ。