千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 今日明日くらいならホテルに避難することも考えられるが、この部屋で次に生活できるのがいつになるのかまったくわからない。

 こんなとき、実家住まいだったらどれだけよかったか。家族も親戚も、親しい友人さえもここにはいない。寒さよりもひとりぼっちの心細さに震えそうになる。

「これはひどいな」

 真後ろから聞こえた声に、弾かれたように振り返った。

「東雲さん!」

 まさかここまでついてきているなんて思わなかった。けれどすぐに彼の手元を見てはっとした。私が管理会社の人の話を聞いた後、ろくすっぽ挨拶もせずにその場を飛び出して来たせいで、彼は私の荷物を持ったままだったのだ。

「すみません……荷物を受け取ることをすっかり忘れてしまっていて」

 荷物を受け取ろうと両手を差し出したが、彼の手は動かない。じっと部屋の中を見ているだけだ。「東雲さん?」と呼びかけると、やっと彼がこちらを向いた。

「ひとまずどうしても必要なもの――保険証とか通帳とか、そういうものだけ取りに入ろう」
「え?」
「うちに来たらいい」

 言っている意味がすぐには理解できずに、数秒動きが停止する。

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