千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「使っていない部屋があるから、状況が確定するまでそこを使っていい」
「え……」

 そんなことができるはずはない。出会ったばかりの男性の家に転がり込むなんて、私にはハードルが高すぎる。包丁もろくに握ったことのない人に、フランス料理をフルコースで作れと言っているに等しい。いや、むしろその方がまだ簡単かもしれない。

 首を左右に振ったが、東雲さんは引かなかった。

「要はただのルームシェアだ。部屋に鍵はかかるし、僕は仕事が忙しくてほとんど家にいないから、実質きみのひとり暮らしと変わらない。プライベートが確保された避難所だと思えばいい」
「避難所……」
「ああ、そうだ。誓ってしつこく口説いたりしないし、許可なく触れたりもしない。必要なら誓約書をかわしてもいい」

 彼の表情は真剣そのもので、からかっている様子はない。

 もし彼が言う通りにしてくれるのなら、正直とても助かることは間違いない。でも、あまりに私に都合がよすぎる。

 仮にひとめ惚れしたというのが本当だとしても、知り合ったばかりの他人をいきなり自分のプライベートな空間に引き入れるなんて、彼の負担が大きすぎる。私なら無理だ。彼には私と暮らすことで得することなんてないのに……。
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