千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「今までかかった分はきちんとお支払いします」

 最終的におごりに甘んじてしまっていたのは事実だ。今さらなにを言ってもただの言い訳にしか聞こえないだろう。
 全部でいくらかかったのかはわからないけれど、ひとまず今財布に入っている万札を全部渡して、ここの支払いをクレジットカードですればいい。
 そう思いながら、バッグから財布を取り出したとき。

「これがいつもの手口か?」
「え?」

 目を見張った私を見て、長澤さんが鼻で笑う。

「同じやり方で、どれだけの男をたぶらかしてきたんだ?」

 あまりの言われように、カッと頭が熱くなった。
 震える指先で急いで財布からお札を抜き取りテーブルに置こうとしたとき、向かいから伸びてきた手に手首をつかまれた。

「きゃっ」

 ぞわっと肌が粟立ち。
 反射的に手を振り払ったら、はずみで彼の手がカクテルグラスに当たる。

 次の瞬間、床でガシャンと大きな音が立った。

「……っ!」

 艶やかな大理石の上で無残に砕けたグラスに、一瞬で血の気が引いた。

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