千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
『あなたなら相手に困ることはないでしょう』

 そう思わずにはいられないけれど、だからこそ結婚相手選びが難航するのかもしれない。『それならひとまず代役を』となるのもうなずける。

 代役の人選もひと苦労だということは察せられる。彼に気がある女性なら、代役だと言われていても、両親に紹介されることで結婚を意識するはずだ。後々ややこしいことになるのが目に見える。本気で結婚を考えている女性以外は、おいそれと両親に合わせたりできないだろう。

 モテるがゆえの悩みということかしら……。

 その点私なら、だれもすきにならないという保証がある。避難させてもらっている恩といくばくかの借金も。これ以上代役にピッタリな人材はいない。

 そう思い至ったら、さっき支配人に会ったときには私を恋人役に仕立てようと目論んでいたのだろうと気付いた。
『運命の人』だなんて言われて、うっかり動揺した自分がばかみたいだ。

「お見合いをされてみたらどうですか? 案外〝運命の人〟に巡り合えるかもしれませんよ」

 もやもやしたせいで嫌みのような言い方になってしまったけれど、実際その通りだと思う。私みたいな欠陥人間を相手にしているくらいなら、お見合いの方が有効かもしれない。
 そう言い添えるか逡巡していたら、彼がふっと視線をそらせた。

「きみにそれを言われるとさすがにへこむな」

 これまでになく悲しげな表情に、胸がずきんと痛んだ。
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