千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「それくらいなら大丈夫ですけど……」
「よかった! ありがとう、美緒」

 目を輝かせながらお礼を言われて面食らった。これくらいでそんなに喜んでもらえるなんて、私はいったいどれだけ冷たい人間だと思われているのだろう。恋人のふりに比べたら、朝食を一緒に取るくらいどうってことない気がする。

 もしかして、旅館並みの豪華な朝食を期待されているのかしら……。

 生活水準の高さからして、朝食がご飯と納豆と味噌汁だけなんてことはあり得なさそうだ。

 ひょっとして選択を誤ったかも……。

 やっぱりやめますと言おうかと思ったけれど、うれしそうにふたつの茶碗を見比べている彼に言えなくなる。
 念のため「大した料理は出せませんよ」と言ってみたら、一ミリもブレることのない笑顔で「大丈夫」と返ってきた。

 まあ、期待外れだとがっかりされるくらいがちょうどいいのかもしれない。そうすればきっと、ひと目惚れなんてすぐに冷めるに違いないわ。

 そう自分に言い聞かせた。

  
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