千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 ***

 物心ついてからずっと同じ夢ばかりを見てきた。出てくるのは『私』だけで、二度と会えなくなった人を想って涙を流す。目が覚めた後も消えない胸の痛みに苦しめられる、ただつらいだけの悲しい記憶だ。

 それなのに、今朝の夢は違っていた。

 貰ったお菓子がおいしくて、口の中だけでなく胸の中まで甘くなっていく気がした。
 一緒にいるだけで心臓がどきどきと鼓動を打ち、ふわふわとして足元がおぼつかない。ずっとこのままでいたいような、でも不思議な心地だった。

 彼がきっと、ずっと会いたいと願い続けていた相手だ。

 やっと再会できたのかといえば、そうではないことはわかっていた。あれは離れ離れになる以前の記憶だ。
 なぜそう断言できるのか自分でもよくわからない。それでもたしかにあれは『私』のところに彼が通ってくるようになったばかりの出来事だと確信している。


「どう? 口に合わなかったかな?」

 声をかけられてはっとした。視線を上げるとテーブルの向かいに座る人と目が合った。

「あ……」

 いけない。朝食の最中だったんだわ。
 起き抜けに見た夢のせいで、せっかくのオムレツを味わい損ねるところだった。

「相変わらずとてもおいしいです」
「そう? よかった」

 白シャツ姿の東雲さんが、安心したような表情で微笑んだ。

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