千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 プライベートのことを詮索するのは気が進まないため、あえて尋ねてこなかったけれど、ここまできたら聞かずには先に勧めない。持ったままにしていた箸を箸置きに戻し、背筋を伸ばした。

「失礼を承知でお伺いさせてください。東雲さんは東雲グループとなにかご関係が……」
「ん? 東雲商事の社長は僕の父だけど」
「お、お父様が……商事の社長……」
「ああ」

 言っていなかったかな? と軽くつけ加えられて、くらりとめまいがした。

 彼が社長を務めるECアーバン開発の『EC』は、『East Clouds』の頭文字を取ったもので、その多くは、東雲商事グループの中でも特に近しい関係にある子会社につけられる。彼が創業一族と無縁ではないことは、察するに余りあった。

 けれどまさか東雲商事の御曹司だったなんて……。

 東雲商事のトップは代々旧東雲財閥の創始者直系子孫が継いでいる。現社長の息子ということは、彼もまた次代の東雲商事社長ということにほかならない。
 そんな人の恋人役が私に務まるとは到底思えない。

「私、やっぱり――」
「その父から、本当は相手なんていないのだろうと疑われて、『いるなら早く紹介しろ、でなければすぐに見合いをしろ』と迫られて困ったよ」

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