千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 救いを求めるような目で見つめられ、『無理です』と出かかっていたセリフがのどの手前で止まる。さすがにもう『お見合いをしてみたら』とは言えない。

 どうやって断ろうか考えていると、彼は真剣な表情で口を開いた。

「たとえ関係性は偽りだとしても、せめて自分の気持ちだけは本当のことを両親に伝えたい。僕の気持ちさえわかってもらえれば、しばらくは見合い見合いとうるさく言われることもないだろう」

 彼はそう言うと、私に向かって頭を下げた。

「頼むよ、美緒。僕を助けると思って」
「や、あの……やめてください」

 慌てて止めたけれど、彼は一向に頭を上げようとしない。とうとう根負けした私は大きく息を吐き出した。

「一回……」
「え?」
「一回だけなら恋人役を引き受けます」
「本当に⁉」

 顔を上げた彼にうなずいてみせる。

「ありがとう、美緒」

 彼は心からうれしそうな笑みを浮かべた。

 始まりは強引だったけれど、結果としてなに不自由ない快適な避難生活を送らせてもらっている。そのことには心から感謝しているのだ。その恩と支払ってもらった代金の利子を返せるのなら、と自分に言い聞かせた。
 
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