千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
　食事の後、片づけを東雲さんが買って出てくれたため、いつもより早く出勤することができた。

　さすがにオムレツを作ってもらったうえに片づけまで丸投げするなんてできないと断ったけれど、彼はこの後在宅でリモート会議に入るだけなので時間に余裕があるから、と言って譲らない。

　きっと昨日私が、『明日は気合を入れる仕事がある』と話したせいだろう。気を使ってもらって申し訳なくなったけれど、今回はそれに甘えさせてもらうことにした。

　というのも、新商品発表レセプションの招待状の宛名書きを頼まれているのだ。

　書道を長く続けてきたところを見込まれて、各部署からお礼状の宛名書きや熨斗紙の名入れを依頼されることがある。

　宛名書きは修正がきかないため、一枚書くのに時間がかかる。集中力もかなりいるので、何十枚と書くためには静かな環境の方がいい。そのためひとりきりで部屋にこもって書こうと、あらかじめ会議室の予約をしておいた。始業前にひきこもるための段取りをしておきたい。

『明日は絶対私がやりますからね』と念を押し、家を出た。

　そうしていつもより早い時間にオフィスに着き、無事にメールをさばき終え、留守の間の手配も済んだ。いつでも小会議室へ移動できるよう必要な荷物を準備していたところ、デスクの上で内線電話が鳴った。
　
　内線をかけてきたのは営業の若手部員で、朝一の会議の準備で予約していた会議室に行くと、すでにそこには企画部の人たちが大勢いて、ここは自分たちが午前中いっぱい使うのだと言われて追い返されたという。
　自分はたしかにこの枠に予約を入れたはずなのにどうなっているのだ、という問い合わせ――というより苦情だった。

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