千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。

「次のターゲットはそいつか？」
「はい？」

　急に低くなった声に心臓がどくんと不穏な音を立てた。長澤さんの丁寧な言葉遣いが消える瞬間を目の当たりにしたのは、あのとき以来だ。

「俺の次は営業の新人を食いものにする気なんだろう？」
「なっ……そんなことしません！」
「大した女優だよ、おまえ」

　汚いものでも見るかのような目つきに全身がカッと熱くなった。

「違います！　私は……っ」

　反論しようとしたら、長澤さんがこちらに足を踏み出した。無意識に後ずさったら、椅子にぶつかった。ガタンと大きな音が立つ。足元に気を取られた瞬間、延びてきた腕に左肩をつかまれた。

「……っ！」
「すました顔して『恋愛しません』なんて修道女ぶって散々たかった揚げ句、さっさと次の男に乗り換えかよ」

　身をよじって振りほどこうとした瞬間、間近で低い声が聞こえた。ぞわっと背筋に悪寒が走る。

「放して……」
「どうせ俺に払った金もこのあいだの男に出してもらったんだろう？　ちゃんと金づるがいるくせに、他の男にも貢がせるなんて、まったく恐ろしい女だな」
「ちがっ……彼とはそんな関係では」

『ない』と言おうとして、瞬間ためらった。狙ったわけではないにしても、あれこれとお金を出してもらった事実がある。

「じゃあどんな関係っていうんだ」
「それは……」

　答えられず口ごもった。