千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 智景さんとの関係に名前をつけたことはない。一番近いのは『家主と居候』だろうけれど、一緒に暮らしていることを長澤さんには言いたくない。

 沈黙したままの私を、長澤さんは鼻で一笑した。

「まあ、あの男も本気でおまえみたいな地味女を相手にしようと思ってないだろうよ。せいぜいもてあそばれて捨てられたらいい」
「あの人のことを悪く言わないで! 彼はあなたとは違います。少なくとも私をだましたり嫌がることをしたりはしません」
「なんだと……おまえ」

 肩をぐっと押されて後ずさった。あと少しで後ろが壁、というところで携帯電話の着信音が鳴り響いた。長澤さんのポケットからだ。
 彼はチッと舌打ちをすると、私の肩から手を離した。

「俺をこけにしておいてこのままで済むと思うなよ。せいぜい今のうちにあの男と楽しんでおくんだな」

 そう言って彼はきびすを返すと、スマートフォンを耳に当てながら会議室から出ていった。

 ひとりきりになった途端、ずるずるとその場にへたり込んだ。

 こ……怖かった……。

 会社でこんな思いをするなんて思わなかった。しばらくの間震えが止まらず座り込んでいたけれど、ここから少しでも早く出たくて、気力を振り絞って立ち上がり、荷物をまとめて会議室を出た。

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