千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「じゃあいったいなにをしたらいいのでしょうか」

 恨みがましい視線を隣に送ると、彼はなぜか反対側を向いた。

「東雲さん……?」

 呼びかけると、長いため息だけ返ってくる。

 もう、なんなのよ……。

 具体的な案があるなら早く教えてほしい。決戦までもう二週間を切っている。平日はお互いに仕事だし、彼の方は土日も家を空けることもある。とにかく多忙だということは一緒に暮らし始めてすぐにわかった。
 ふたりそろっている時間は珍しいのだから、この時間を無駄にするのはもったいない。

「私にできることがあればおっしゃってください。がんばりますので」

 そうだ。彼には色々と恩がある。それを返すために恋人役を引き受けたのだから、ここでくじけていては恩返しなんてできるはずがない。

 気合を入れ直して彼の横顔を見つめると、やっとこちらを向いた。

「じゃあ手始めに、名前で呼ぶというのはどうかな。さすがに家族の前で名字呼びはおかしいだろう」

 言われてはっとした。そうだ。当たり前だけど、彼の両親もみな『東雲さん』なのだ。そんな中で彼のことを名字呼びしていたら、誰のことを言っているのか混同してしまうに違いない。

「わかりました。では――」

 さっそく名前を呼ぼうとして、ぴたりと口が止まった。

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