千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「からかうなんてひどいですよ」
「まさか。今のも練習のひとつだよ。直接触れ合わなくても恋人らしいことができるだろう?」

 うっ、と言葉に詰まった。言われてみれば確かにその通りかもしれないけれど、恥ずかしいことこの上ない。

「ほら、ご機嫌を直して」

 そう言って彼はもうひと粒私の口の中に琥珀糖を放り込む。噛みしめるとシャリッという音がした。

「東雲さんは私のこと、甘いものを与えればご機嫌が直る子どもだと思っていませんいか?」
「前半はあえて否定はしないけど、後半はしっかり否定しておこうか」
「後半?」
「子どもだと思っていたら、こんなふうに触れたいとは思わない」

 色っぽい手つきで下唇の際をすーっとなぞられて、一瞬で全身が石のようになった。

「あ、これはアウトだったか」

 彼は手を離し、にこりと極上の笑みを浮かべる。

「美緒の番だな」

 そう言って琥珀糖の箱をこちらにすすすと寄せてきた。なんのことだかわからず、箱と彼を視線で往復する。

「さっき『東雲さん』って言ったよな」
「あっ」

 無意識に言ってしまった。
『私の番』って、もしかして……。

 彼が目を閉じて唇を開けるのを見て、予感的中を悟った。

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