千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
 お互いに『あーん』と食べさせ合うことなんて、漫画の中でしか見たことがない。
 さっき食べさせてもらったのもかなり恥ずかしかったけれど、反対も相当だ。だけどこれも練習だと言われれば、やらざるを得ない。

 琥珀糖をひとつつまみ、そっと彼の口に近づける。

 薄すぎず、かといって厚すぎない形のよい唇は、口紅なんて塗っていないはずなのにきれいなサーモンピンクだ。この唇に触れたらどんな感触がするのだろう。ついそんなことを考えてしまい、慌ててかぶりを振る。

 私がどんなに躊躇して動きを止めてしまっていても、彼は急かすことなくじっとしてくれている。あまり口を開けっ放しで待たせてしまうのが申し訳なくなり、思い切って彼の口の中に琥珀糖を入れる。舌の上にのったと同時に手を引こうとするも、それより早く彼の唇が閉じた。

「ひゃっ!」

 勢いよく指を引き抜いた。温かく柔らかな感触が焼きついた指先を凝視しながら、凍りついたように動きを停止する。
 私とは逆に、彼は平然と琥珀糖を咀嚼してから飲み込んだ。

「ごちそうさま。美緒に食べさせてもらうとおいしさも倍増だな」

 花がほころぶような笑顔がうらめしい。私は真っ赤になったまま自分の食いしん坊ぶりを猛省した。
 
< 92 / 177 >

この作品をシェア

pagetop