千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
よみがえる記憶と雪の夜

 智景さんのマンションでの居候生活から早三週間が過ぎた。
 恋人役の練習を始めてからみるみる琥珀糖は減り、とっくの昔に空になっている。

 名前呼びにどうにか慣れてきた頃、智景さんが突然新たな課題を出してきた。
 せっかく無駄に心拍数を上げることが減ってきたのに、また振出しに戻ってしまう! とは思ったものの、まだ恋人らしいというほどではないと言われれば、拒否することがためらわれる。

 彼が『出先で見つけたから』と言って広げた箱の中には、カラフルなマカロンが並んでいた。色も形もかわいいスイーツの魅力に抗えるはずもなく、再び課題に取り組むことにした。

 それからずっと、彼はまるで私の好みを熟知しているかのごとく、心惹かれる甘味ばかりを買ってくる。
 ひとつをクリアーすることに次、また次へとチャレンジは繋がっていった。

 そうしているうちに二週間がたち、とうとう今日、彼のご両親に会うために彼の実家を訪れる日を迎えた。

 朝は早く起きて、身なりはそれなりに整えたものの、これで本当に大丈夫なのだろうか。準備期間が短くて、恋人のふりがきちんとできるのかも不安だ。
 ここに来て、やっぱり無理ですと逃げ出した気持ちになるのをこらえながら、自室を出て一階へ向かった。

 階段を降りている途中で、ソファー横に智景さんが立っているのが見えた。こちらに背を向けている。

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