千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「美緒、ちょうどよかった。これを――」

 言いながら振り返った彼が、大きく目を見張った。私を凝視したまま、一向に口を開かない。

 やっぱり似合ってない……のよね……。

 私が着ているのは、前に津雲屋で彼が選んでくれたワンピースだ。

 紺一色で、Aラインのひざ丈下スカートというシンプルなデザインだが、鎖骨に添うように折り返したロールカラーや、ひじのあたりで軽く膨らんだ袖が、クラシカルでかわいらしい。座っても膝が出ない丈感も安心だ。
 なにより着心地がよく肩が凝る感じがない。
 さっき初めて袖を通した際に、試着もしていないのにどうしてこんなに私の体にピタリと合うものを選べたのかと驚いた。

 サイズも着心地も文句なしの満点だけれど、着ているのが私だというところが問題なのかもしれない。いつもより念入りにお化粧をし、髪型もひと手間かけたまとめてみたけれど、所詮中身は私。きっと服に着られている感が否めないのだろう。

「やっぱり変でしょうか」

 恐る恐る尋ねたが、彼は何も言わない。地味な私にこんな素敵なワンピースは似合わなかったのだと肩を落としかけたとき。

「きれいだ……」

 聞こえた言葉に「えっ」と目を見開いた。今まで一度も言われたことのない言葉に耳を疑う。

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