千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「わかりました」

 ボンボンショコラの誘惑に抗えず承諾すると、彼はさっそくケースの中からイヤリングをひとつ取り出した。
 彼がつけやすいよう首を少しひねって顔を横に向ける。次の瞬間、延びてきた手がうなじをかすめた。

「ん……っ」

 鼻に抜けるような甘ったるい声が出たことに驚いて、慌てて口を手で押えようとしたが、耳のすぐそばで「動かないで」と言われる。静かな低音が鼓膜に震わされ、背中にぞくぞくっと甘い痺れが走る。

 腰を折って顔を近づけた彼がイヤリングのネジを回す。彼の指がうなじをかすめるたびに、肩が跳ねそうになるのをこらえる。唇を噛みしめて必死に声を我慢した。

「できた」

 両側の耳にイヤリングをつけ終わった彼の、満足そうな声を合図に、私は「ふー」と長い息をついて両肩に入っていた力を抜いた。
 彼が箱からボンボンショコラをひとつつまみ上げる。

「はい、どうぞ」

 さすがにこの流れがなにを意味するのかは、もう尋ねなくてもわかる。これまでにないチャレンジのせいで、上がった心拍数は戻らないけれど、これ以上速くなることもない。おとなしく口を開けると、真珠のようにまん丸いチョコレートが舌にころんと乗せられた。

 飴のように滑らかで固い食感を舌の上で楽しんでいるうち、チョコレートが蕩けだす。カカオのほろ苦さを感じながら噛むと、柔らかなガナッシュの食感を感じる。口の中に一気に爽やかなレモンの味が広がった。

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