千年前の恋を忘れずにいたら、高貴な御曹司の最愛になりました。
「おいしい……」

 もともと果物がすきな私は、スイーツでもフルーツ系フレーバーを選びがちだ。特にレモンやオレンジなどの柑橘系には迷わず飛びつく。そのことを彼に言った記憶はないため、今回はたまたま選んだものがレモンだっただけだろう。

 レモンの酸味とチョコレートの甘みが口の中で絶妙に混ざり合うのを味わうように噛みしめていると、頭の上をぽんぽんと軽く撫でられた。

「美緒は本当に食べさせがいがあるな」
「どうぞ遠慮なく食い意地が張っているとおっしゃってください」

 表情を変えることなく淡々と返すと、彼がくつくつと肩を揺らして笑う。

「かわいいってことだよ」

 彼が私のことをそういうふうに言うのはいつものことだ。少しでも動揺するとまた笑われるだろうから、できるだけ冷静なふりを装う。

「お世辞は結構ですから。私、歯を磨いてきますね。そしたらいつでも出られますので――」

 言いながら彼に背を向けようとしたとき、手首を取られぐいっと引かれた。

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