スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
「最後に君を抱きしめてもいいか?」
「はい、旦那さま」

 ライザスとリリアが抱き合うと、神官は目をそらし、魔導士は咳払いをした。

「ええっと、そろそろよろしいですかな?」

 魔導士に声をかけられて、リリアとライザスは名残惜しそうに離れる。
 まるで永遠の別れのような空気がふたりのあいだに広がるが、周囲はほとんど真顔、そして無言だ。

「では奥さま、魔力を開放してください」
「はい」

 リリアは以前と同じように目を閉じて魔力の解放に集中する。
 今度は余計なことを考えないよう訓練をしておいた。

 まばゆい光に包まれて、リリアはライザスの両手を握る。
 ライザスは終始リリアを見つめていた。
 やがて光が一点に集まり、魔導士が手に持つ特殊な紙に文字が印字された。
 光が消えると、魔導士は紙を見てゆっくりと告げる。

「侯爵閣下に付与されたスキルは……」

 周囲が固唾を呑む。
 リリアは少しうつむいて新しいスキルを受け入れる覚悟をした。
 ライザスは険しい表情をしている。
 魔導士がもったいぶりながら読み上げた。

「【慈愛】です」

 その瞬間、空気が凍りついたように固まった。

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