スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
　スキル【慈愛】を獲得したライザスはその日から周囲に優しくなった。
　以前は掃除の行き届いてない場所を見つけるたびに厳しく叱責していたが、今はそこまで厳しいチェックはしていない。
　汚れを見つけた場合は使用人を叱りつけるのではなく、掃除をお願いをするようになった。
　料理長へは以前と同じように気になる点を口にしたあと「いつもありがとう」と必ず感謝の言葉を添えた。

　ライザスが温厚になったおかげで周囲に笑顔が広がっていった。

　リリアに対する過度な愛情表現はなくなった。
　ライザスはリリアと適度な距離を置いて接するようになった。

「以前の俺は異常なほどあなたに陶酔していた。今はなんというか、いい意味で落ち着いている」
「それはよかったですわ」

　リリアとライザスは庭園で花を眺めながら午後のティータイムを過ごしていた。
　ふたりの周囲にはピンクのマーガレットが咲き誇り、やわらかい風に揺れている。

「あの、申し訳ございません。またお望みのスキルではありませんでしたね」
「いや、前に比べたらマシだ。やるべきことに集中できるしな」
「そうですか」

　スキル【溺愛】のときのライザスはとにかく一日中リリアのことばかり考えていたので執務に支障をきたしていた。
　執事のアベールは困惑していたが、今回スキルの書き換えをおこなったおかげでライザスは以前のようにきちんと執務に取り組むようになった。

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