スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 ライザスは無言で顔を背けてそのままダイニングルームを出ていく。
 リリアはほっとため息をついた。

 彼が出発する日までこのような緊張の日々を送るのだろうか。
 それを考えると気が滅入りそうだった。


 その後もなぜかライザスと出くわすことが多かった。
 さすがにずっと部屋にこもりきりなのは気が滅入るので書庫へ行けば、なぜかそこにライザスがいたし、気分転換に庭園で散歩をしていれば必ず彼と鉢合わせた。

 そしてただ単に廊下を歩いているだけでライザスとすれ違うのだ。
 そのたびに彼は冷たい目でリリアを睨みつけてくるのだった。

「どうしてこんなに会ってしまうのかしら? もう部屋から出ないほうがいいわね」

 ソファに座って頭を抱えるリリアを見て、マリーは紅茶を淹れながら話す。

「まるでわざとリリアさまと鉢合わせているように思えてならないのですが」
「どういうこと? だってあちらは完全にご立腹なのよ」
「うーん……私には思春期の男子に見えてならないのですが」
「え? あの、旦那さまはたしか26歳では……?」
「まあ、そんなにお気になさらずともよろしいかと。どうせ10日後には旅立ってしまわれますから」
「ええ、そうね」

 あと10日ならもう部屋から極力出ないようにすればいい。
 深いため息をつくリリアに対して、マリーは終始にやにやしていた。

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