スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 なんとか顔には出していないが、その胸中は大混乱である。

「いや、少し疲れているだけだ。俺にかまわなくていい」

 冷たくそう言ってしまったが、すぐに後悔する。

(違う、そうじゃない! そんなことが言いたいのではない!)

 ちらりと目をやるとリリアはひどく落ち込んでいるようだった。

「申し訳ございません。出過ぎた真似を」

 リリアが神妙な面持ちで頭を下げる。
 ライザスはどうしようもない罪悪感でいっぱいになった。
 しかし、あくまで冷静に告げる。

「あなたが謝ることはない。俺がどうなろうとあなたには関係のないことだ」

 さらに口調が冷たくなり、リリアはますます気まずそうな顔をした。

(何言ってんだ俺! そうじゃないだろ! 素直にありがとうと言えよ! 心配してくれたのかありがとうと言えよ!)

 リリアがきゅるんとした瞳で見つめてくる(ライザスにはこう見える)ので、これ以上顔を合わせるのに耐えられなくなった。
 ライザスはくるりと背中を向けてリリアに告げる。

「用があるので失礼する」

 そう言ってさっさと書庫を出ていった。

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