スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 しばらく真顔で歩いていると、周囲の使用人たちが慌てて道を開けた。
 まわりはライザスが何かに怒っているか、あるいは機嫌が悪いのだろうとひそひそ話した。

 しかし、ライザスの胸中は違った。

(ああ、せっかくのチャンスだったのに。茶でも飲まないかと誘えばよかった。俺は夫だ。妻を茶に誘うくらい何の問題もないではないか)

 ライザスは混乱する胸中を決して誰にも悟られないよう、いつものように不愛想を貫いた。
 このままではいけない。
 煩悩に負けてしまう。

 ライザスは時間があれば騎士たちに剣術の相手をさせた。
 ひとり、またひとりと薙ぎ倒していき、地面に倒れた騎士たちはいい加減にしてくれと言わんばかりに抗議した。

「もう無理です。ついていけません」
「少し手加減していただけませんか」

 弱音を吐く騎士たちに向かってライザスは鋭い目で睨みつけながら言い放つ。

「その程度で音を上げていては戦場で死ぬぞ」

 ライザスは腰を抜かした騎士に剣を突きつけて命じる。

「立て。まだしゃべれるなら戦えるはずだ」
「鬼ぃーっ!!!」

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