スキル【溺愛】を獲得した冷酷無慈悲な侯爵は契約結婚の贄嫁を愛でたい
 そばに控えていた使用人が慌てて床に落ちたフォークを拾う。

「すぐに新しいものをお持ちいたします」
「ああ、そうしてくれ」

 ライザスはあくまで冷静にそう言った。
 リリアが少し驚いた顔をしているので、ライザスは焦った。

(もしやマナーがなっていないと思われたのだろうか。フォークを落とすなど幼少期以来の失態だ。こんな無様な姿を彼女に見せてしまうとは……恥を知れ、俺!)

 肉料理のあとにデザートが運ばれてきた。
 今日はホイップクリームが添えられたチョコレートケーキだ。

 ライザスはその日の気分でデザートを食べるか決める。とは言え、ほとんど口にすることはない。
 今日はリリアがデザートを食べているところを見ていたかったので、席を立たなかった。
 料理長が気づいて声をかけてくる。

「旦那さま、デザートをお持ちいたしましょうか?」
「いや、いい。少し酒を飲んでから戻ることにするから俺にかまわなくていい」
「かしこまりました」

 料理長は深く頭を下げた。

 ライザスはワイングラスを口につけながら、やはり目線はリリアにあった。
 リリアはチョコレートケーキを黙って食べている。
 その際、彼女がフォークについたホイップクリームを少し舐める仕草をして、ライザスは熱い衝動が抑えられなくなった。

(まずい、まずいまずいまずい! あらぬことを考えてしまう。もうこれ以上は見ていられない)

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